階高5.8m、
コンクリート打放仕上の壁との戦い
川上私はこのプロジェクトの工事に携わる以前にも、消防署の出張所の建築をいくつか手掛けた経験がありました。ただ、このような本格的な訓練棟までを備えた本庁を担当するのは初めてのことでした。そういう意味では、技術者として純粋にとても興味がありましたし、プロジェクトが始まった当初から大きなやりがいを感じていました。
勝冶江田島市消防本部庁舎を作り上げるうえで一番のポイントになったのが、階高が5.8mあるコンクリート打放仕上の壁を施工することでした。構造的にも、意匠的にも、かなり難しい仕様になっており、注意深く施工しなければすべてが台無しになってしまうというプレッシャーを感じてました。関連作業者との調整に時間をかけ、いつも以上に入念に打ち合わせを繰り返していたと思います。
川上私も本当に難しい案件だと感じていました。勝冶さんがおっしゃる通り、階高がとても高いことから、内部での作業足場を検討したり、2階の床を支えるための型枠支保工を検討したりと、普段以上に入念な検討作業を繰り返した覚えがあります。
松島私は勝冶さんや川上さんがベテランの職人さんたちとやり取りしている様子を見ながら、普段は仲良くしているけれど、仕事に関してはきちんと割り切って陣頭指揮にあたる姿に感心しました。たくさんのことを学ばせてもらった気がします。
勝冶コンクリート打放仕上は、かなり労力がかかる作業です。しかも相当な高さがあるため、コンクリートを打設(型枠に流し込む作業)する際、石とセメントが分離しやすいのがネックとなります。そのため、どのようにコンクリートを打てばいいのかを考えるのが難しかったですね。
受注直後の豪雨災害、
混沌の中での悪戦苦闘
川上コンクリート打放仕上の壁以外には、現場が海のそばにあるという点も大きな問題でした。現場の目の前にカキの養殖筏が広がっていたからです。工事現場から出る汚水が海に流出し、カキの生育に悪影響が出たら大問題になりかねません。そこで、泥が混じった汚水をできる限り浄化したうえで海に流せるように工夫しました。その結果、漁業への目立った影響も見られず、無事に工事を終えることができました。
勝冶そのほかにも苦労したのは、受注した翌月に豪雨災害が発生し、資材の搬入が大幅に遅れたことです。江田島市は陸路で行く場合、橋を通ることになります。ただ、そこに至るまでの国道31号線が豪雨による土砂災害で寸断され、復旧工事に伴う通行止めの影響により、あちこちで道路の渋滞が発生。思うように資材が届かず、当初から大幅なスケジュールの遅延が発生してしまったのです。
川上確かにあれは大変でしたね。結果的に道路の土砂が取り除かれ、元通りに復旧するまでに4カ月ほどかかったと思います。
勝冶広島市内から現場まではおよそ50㎞。通常であれば1時間くらいで着ける道のりが、渋滞の影響で3~4時間かかってしまう日々がしばらく続きました。普段なら1日で3往復できるのに1往復が精いっぱいの状況で、資材のやりくりに相当苦労しました。それでも1台あたりの積載量が多い車両に変更したり、渋滞時間をずらして搬入したりすることで、作業の遅延をなんとか取り戻すことができました。